2019年アメリカで最も売れた小説『ザリガニの鳴くところ』を一気に紹介!
『ザリガニの鳴くところ』 ディーリア・オーエンズ
目次
①要約
②感想
③本書のテーマ
④動物行動学者という視点
①《要約》
6歳のころ、家族に見捨てられたカイア。
ノースカロライナの湿地でたった一人で生き続けるカイアは、人の裏切りや愛を経験しながら成長していく。そんなカイアのそばにいたのは、広大な湿地の自然だった。
ある日、村で有名なチェイスの突然死にカイアの元へ、殺人容疑がかかる。
②《感想》
こんなにも、レビューが書けない作品があるだろうか、、、というのが第一声に言いたい感想。
もう、カイアを放っておいてあげてよと思う気持ちと、
もっとカイアを包み込んであげてよと思う相反する気持ちに揺さぶられながら最終ページを迎えました。
“生きる”ってまさにこういうことを言うんだと思います。
このたった数行を描くのに20分ほどかかってしまうほど、素晴らしい作品でした。
③《本書のテーマ》
もしこの本を何かのテーマに絞るのなら、
愛と憎しみではないでしょうか。
・カイアに文字を教えてくれたテイトからの愛
→このおかげでカイアは湿地で集めたものを標本にすることができた
・カイアを裏切ったテイト、チェイスへの憎しみ
・音沙汰もなく出て行った母親への憎しみと、大人になってから母の気もちを理解することができた愛
・自分を娘のように扱ってくれたジャンピンからの愛
・村のほぼ全員に“湿地の少女”を受けた差別という憎しみ
愛とか憎しみって、人間が描く独特なものだからこそ、こういった人間らしい感情を描くカイアにどこか安心している自分がいました。
④《動物行動学者という視点》
一方で、本書では動物が本能で動くシーンが頻出します。
たとえば、けがをした仲間を食い殺そうとうするシチメンチョウや、偽りの愛を送る蛍、
交尾相手を食い殺そうとうするカマキリなど。
この本能は決して野生だけがもつものではない。ということをこのように書かれています。
『ここには善悪の判断など無用だということを、カイアは知っていた。そこに悪意はなく、あるのはただ拍動する命だけなのだ』
『人間として感情に揺り動かされながらも、時として人間も、生き残るうえでやらざるを得ないことをするときがある』
このことを知っているカイアの強さや自立心に圧倒されました。
ここは、愛と憎しみというテーマを超えた領域にあると思いました。
それにしても、作者、動物行動学者といえど、こんな作品がデビュー作だなんて・・・
人種差別や貧困、教育格差、DVなど舞台となる1950年から1960年のアメリカの社会問題を実際に経験した身として描かれているからこそ、描写がリアルでした。
世界文学って、独特の言い回しや、時代背景の知識が要されることが多いと思うけど、
この作品はそういった知識は一切いらないので読みやすいです!
ただ、1900円+税と511ページにもなる長編作なので、根気強さが必要になります。
でも何度も言いますが、
読んで絶対に損しません!
一人の少女が生きぬく姿を見てほしいです!
では、次回の作品でまたお会いしましょう^^